モテKingのターゲット


着替えを終えた私は、事務所にいる店長に挨拶をしてその場を後にした。


搬入口から外へ出ると……。


「ッ?!」


壁に凭れるようにして彼……周さんが立っていた。

出待ちだ。

私が出て来るのを待っていたに違いない。


そういえば、話もまだ途中だった。

はぁ……、今日は最悪だ。



「お疲れ様でした」


私は何食わぬ顔で彼の前を通り過ぎた。

けれど、話し掛けてくる様子もなく。

私は店舗裏の通りをスタスタと歩き出す。


私の気のせい?

でも、今さっきの目も同じだったのに。


私は振り返る事無く、駅へと向かった。


触らぬ神に祟りなし。

この言葉に尽きるよ。



土曜日の夕方は駅前も混んでいて、夏の蒸し暑さが一層増した気がした。


「あっつ……」


無意識に漏れ出す声にも張りは無く、人波に掻き消されてゆく。



改札を抜け、疲れ気味の足取りで階段を上り、ちょうどタイミングよくホームに入って来た電車に飛び乗った。


< 62 / 168 >

この作品をシェア

pagetop