モテKingのターゲット
着替えを終えた私は、事務所にいる店長に挨拶をしてその場を後にした。
搬入口から外へ出ると……。
「ッ?!」
壁に凭れるようにして彼……周さんが立っていた。
出待ちだ。
私が出て来るのを待っていたに違いない。
そういえば、話もまだ途中だった。
はぁ……、今日は最悪だ。
「お疲れ様でした」
私は何食わぬ顔で彼の前を通り過ぎた。
けれど、話し掛けてくる様子もなく。
私は店舗裏の通りをスタスタと歩き出す。
私の気のせい?
でも、今さっきの目も同じだったのに。
私は振り返る事無く、駅へと向かった。
触らぬ神に祟りなし。
この言葉に尽きるよ。
土曜日の夕方は駅前も混んでいて、夏の蒸し暑さが一層増した気がした。
「あっつ……」
無意識に漏れ出す声にも張りは無く、人波に掻き消されてゆく。
改札を抜け、疲れ気味の足取りで階段を上り、ちょうどタイミングよくホームに入って来た電車に飛び乗った。