いつかすべてを忘れても、きみだけはずっと消えないで。


ここがどこだか分からない恐怖なのか、もう手の届かない春斗への想いなのか。


どっちなのか自分でもよく分からない涙が、私の頬を虚しく伝った。


───その時だった。


「………さき………み……さき……」


どこか遠くから、大好きな春斗の声が私の耳に届く。


とうとう私、幻聴まで……?


「……心咲っ」


春斗の姿が、私の視界の片隅に入った。


あまりにも都合のいいことが本当に起きて、私は一瞬夢を見ているのかと思った。


………でも。


「心咲!大丈夫か!?」


涙を流し、しゃがみ込んでいる私の体をきつく抱きしめてくれたのは、他の誰でもなく春斗で。


こんな状況なのに、背中に回された腕にドキドキしている自分がいる。


「……春斗……っ」

「心咲、俺だよ。分かるか?」


私は春斗の言葉に、一回だけ頷いた。


< 102 / 271 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop