いつかすべてを忘れても、きみだけはずっと消えないで。


「きっと俺は、一生涯、心咲しか愛せないから」


呼び方が“心咲さん”から“心咲”へと変わる。


お母さんの前だというのに私の体をグッと引き寄せ、強く抱きしめた春斗。


私も、そっと春斗の背中に腕をまわす。


「………心咲、よかったわね。春斗くんに出会えて。あとは若い者同士、上でゆっくりしていきなさい」


視界の片隅に、優しく微笑むお母さんの姿が映った。


ほんの一瞬だけ。


自分が病気であることを忘れられた、そんな気がした。


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