いつかすべてを忘れても、きみだけはずっと消えないで。
学校で使う教科書やペンケース、それから絆創膏など必要最低限のものが入ったポーチが収められているスクールバックを手に持つと、私は部屋を出て1階へと続く階段を早足で降りる。
リビングの扉を開けば、いつもはもういないお父さんの姿があった。
「心咲、今日はずいぶんと早いじゃないか。父さんが会社に行く前に起きてくるなんて」
お父さんは私を見るなり、珍しいものを見るかのように目を丸くする。
「あなた。今日ね、心咲は朝早くからお友達と彼氏の春斗くんと会うんですって」
「彼氏……?」
「ええ。荒嶋春斗くんっていう、とっても素敵な好青年よ」
お父さんには春斗のことを言ってなかったから、というか言う機会がなかったから、とってもびっくりしてるみたい。