いつかすべてを忘れても、きみだけはずっと消えないで。
リビングの扉を開くと、お味噌汁のいい香りが鼻をかすめる。
「心咲、おはよう。今日は随分と遅かったじゃない。昨日、寝るのが遅かったのかしら?」
お玉をくるくる回しながらお味噌汁を混ぜているお母さんが、クスクス笑いながら言った。
私は対面式キッチンの前にあるテーブル専用のイスに腰かける。
「別にそんなわけじゃないけど……。昨日はあんまりぐっすり眠れなくて」
「あら、そうなの?昨日は土曜日で春斗くんに会えていないから、それで眠れなかったの?」
私を見ながら、意味深に笑うお母さん。
だけど私はお母さんの言ったことが理解できず、首を傾げる。
「ねぇ、お母さん。“春斗”って、誰?」
その瞬間、お母さんの眉がピクリと動いて、だんだんと真っ青になっていくお母さんの顔。