いつかすべてを忘れても、きみだけはずっと消えないで。


「……?ねぇ、お母さん?」


心配になってお母さんに呼び掛けたら、お母さんは必死に唇を動かして何かを言おうとしていた。


「……とくん、分からない、の……?」

「え?」

「み、さき……。春斗くんのこと、本当に分からないの……?」


顔面蒼白。


その言葉がぴったり当てはまりそうなお母さんは、声を震わせる。


春斗……?


私、そんな人知らない。


なんでお母さんは、そんなに怯えた顔をしてるんだろう。


「……分からない。私、その人知らないよ?春斗って、誰なの?」


お母さんの顔を見てそう問うけど、お母さんは黙りこんだまま何も言わない。


「心咲……」


数秒してポツリと私の名前を呟いたあと、お味噌汁の火を止めてこっちに向かってくるお母さん。


< 223 / 271 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop