いつかすべてを忘れても、きみだけはずっと消えないで。
「……?ねぇ、お母さん?」
心配になってお母さんに呼び掛けたら、お母さんは必死に唇を動かして何かを言おうとしていた。
「……とくん、分からない、の……?」
「え?」
「み、さき……。春斗くんのこと、本当に分からないの……?」
顔面蒼白。
その言葉がぴったり当てはまりそうなお母さんは、声を震わせる。
春斗……?
私、そんな人知らない。
なんでお母さんは、そんなに怯えた顔をしてるんだろう。
「……分からない。私、その人知らないよ?春斗って、誰なの?」
お母さんの顔を見てそう問うけど、お母さんは黙りこんだまま何も言わない。
「心咲……」
数秒してポツリと私の名前を呟いたあと、お味噌汁の火を止めてこっちに向かってくるお母さん。