いつかすべてを忘れても、きみだけはずっと消えないで。
「えっと……最近、物忘れが激しくなったように感じます」
「物忘れ?」
「はい。あ、でも物忘れっていっても、普通の物忘れじゃなくて……。何かを思い出すことができなくなったんです」
「何かを思い出すことができない、ですか」
「はい。小さな頃のアルバムを見ても、こんな所に行ったことあるかな、とか。自分がよく通ってた公園の名前を忘れちゃったりとか。でも、お母さんとかに聞けば、ちゃんと思い出せます」
お医者さんは私が言ったことを、スラスラと何かに書き込んでいく。
「松岡さん。誰かの名前を忘れたりとか、一瞬、家族や友達の顔が分からなくなったりとか。そういった症状を経験したことはありますか?」
私は頭の中をフル回転させる。