いつかすべてを忘れても、きみだけはずっと消えないで。
誰かの名前を忘れたこと?
誰かの顔が分からなくなったこと?
………ううん。
「そんなことは、ありませ………」
「何か、思い当たる節でも?」
途中で言葉につまってしまった私を、お医者さんが見逃すはずがなかった。
………そういえば。
「一回だけ、1ヶ月前くらいに姉が誰だか分からなくなったことがあります。“心咲”って呼ばれても、“誰?”っていう感じで……。そのあとすぐに思い出したけど、とても怖かったです……」
私は一回、お姉ちゃんのことを忘れたことがある。