月下美人が堕ちた朝
カズヤが、親父、と、言った。
「親父、今日も帰り遅いの?
最近毎日じゃない?」
ユウコさんは振り向かずに言った。
「最近?
昔からよ。
ずっと昔から」
いつもと違う声のトーンに、あたしは思わず彼女の背中を見つめる。
それが小さく見えるのは、どうかあたしの頭がオカシイからでありますように。
カズヤの家庭はあたしの理想だったから。
哀しい現実が見え隠れするのは、耐えられなかった。
さぁ、と、ユウコさんは言った。
「さぁ、できた。
食べましょう」
その笑顔が偽物だなんて信じない。
あたしは無邪気に笑って、拒否反応を示す胃を無視しながらハンバーグを食べた。
「おい、無理しなくて良いからな」
カズヤは小声で言ったけど、あたしは聞こえないふりをした。
ユウコさんの世間話に相槌を打ちながら、あたしは夕飯を平らげた。