月下美人が堕ちた朝

お袋…、と、カズヤが言った。

「お袋…変な番組見すぎなんじゃない?
前世なんて言葉、お袋の口から初めて聞いたよ」

カズヤは大声で笑い、あたしもユウコさんもつられて笑った。

こんなに楽しい夕飯はいつぶりだろう。

あたしは頭の片隅で、そんなことを考えていた。

ところで、と、ユウコさんが言った。

「ところで、アミちゃんは?
恋人はいないの?」

心臓の奥が痛んだのを感じた。

言葉が出てこない変わりに、胃が破裂しそうなぐらい暴れ出した。

顔面の血が引いて行くのが分かる。

「アミ?」

カズヤの声が少しだけ遠くに聞えたが、あたしは次の瞬間思いきり立ち上がり、トイレへ駆け込んだ。

不安定な足取りで、そのまましゃがみ込み、また嘔吐した。

胃のムカつきと、夕飯を作ってくれたユウコさんへの罪悪感で勝手に涙が出てくる。

あたしが水を流したとき、後ろから声がした。
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