月下美人が堕ちた朝
「あたし、難しいことは良く分かんないけどさ、解剖とかしなきゃいけないのを、家族が断固として断ったらしいんだよね。
警察がまだ両親を説得してるらしいんだけどさ。
でも死因は明確で、刃物で背中を三カ所…」
嗚呼、また気が遠くなる。
あたしが「さよなら」と呟いた背中が赤く染まっていくのが脳裏に浮かんだあと、闇に倒れた。
誰かが遠くで叫んで、誰かがあたしの体を揺する。
「大丈夫ですか?
大丈夫ですか?」
「救急車、救急車誰か呼んで」
七月二十五日。
今日はなんて不運な日。
スバルが殺され、自分は病気だと言われたうえに、二回も倒れるなんて。
あたしは朦朧とする意識の中、脈を計る誰かの腕を握って言った。
「あたしは良いから、スバルを助けて」