月下美人が堕ちた朝
「はい、承知しました」

彼の言葉を合図に車はゆっくりと動き出した。

この病院からあの部屋まで、車だったら十分くらいで着くだろう。

闇の中をヘッドライトが照らし、イライラしてしまう程の安全運転で車は進んでいく。

その間にも、運転手は天気の話や高校野球の話をしてきたが、あたしは全て無視した。

今のあたしに、そんな質問は馬鹿気ていたし、普段からタクシーの運転手と会話する余裕なんてない。

あたしはバッグから煙草を取り出し、窓を開けて火をつける。

一瞬煙を吸い込んだだけで、頭がグラリと揺れて咳込んでしまう。

「大丈夫ですか?」

運転手は驚いて、車を道路の端へ寄せて停止させる。

あたしはドアを開け、外へ倒れた。

ヨツンバイになり、涙を流しながら咳を続けた。

いつの間にか車から降りていた運転手が、あたしの背中を摩る。

「大丈夫ですか?」
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