月下美人が堕ちた朝

倒れたらまた病院に連れ戻される。

弱音を吐いたら、スバルに逢えない。

あたしは荒い呼吸のまま、無理矢理車に戻ろうとした。

「少し外の空気を浴びた方が良いですよ」

後部座席にだらしなくもたれているあたしに、彼はドアを全開にして話続けた。

「そういえば、あそこの公園で事件があったんですよねぇ。
昨日だったかな?
若いお兄ちゃんが刺されたって。
お客さんも気を付けないと。
おかしな人間が増えたから」

気付けば此処は、サクラザワ公園のすぐ近くだった。

奥からブランコがきしむ音が聞こえる。

おかしな人間は、増えたわけじゃない。

この世界が汚れすぎて、みんなが限界を越えただけ。

ヒトは持ってる。

残酷さも卑劣さも、優しさも…。

運転手は続けて言った。

「早く犯人捕まんないのかね。
若い人たちのことだから、些細なことで喧嘩して殺しちまったんだろうね」
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