月下美人が堕ちた朝
色も、音も、光も、この空間は失ってしまったのだ。

あたしは仕方なく人工的な光を求めて、スイッチを押す。

汚い。

なんて汚い部屋なんだろう。

あたしはバッグをキッチンの床へ放り投げ、充分に整っているベッドのシーツをミリ単位で直した。

クローゼットはサイズごとに並べておいたのに、それを色ごとに分けたりした。

あたしの悪い癖がまた出てきたのだ。

余計なことを考えないように、どうでも良い小さな部分に嫌悪感を抱き、全て直すのだ。

あたしはグラデーションのように綺麗に並んだ洋服を眺め、クローゼットを閉めてその場にしゃがみ込んだ。

無意味だ、何もかも。

とにかくスバルの実家の場所が分かるような手掛りを探さなくてはならない。

あたしは立ち上がり、もう一度クローゼットを開けた。

あたしの洋服の隣にある彼の服は、ほとんどがスーツだ。
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