月下美人が堕ちた朝
そしてあたしは、スーツ以外のものを身に纏った彼の姿を、思い出しにくくなっていた。

この白いスーツは、初めてNo.1に昇進したときに先輩からもらった、って言っていたっけ。

No.1になれたことが嬉しかったのか、先輩にスーツをもらったことが嬉しかったのかは分からないが、スバルは数日後までとてもご機嫌だったのを覚えてる。

あたしはそれのポケットに手を入れた瞬間、何か固いものに勢い良く爪が当たった。

あたしは反射的に手を引っ込めて、爪が割れていないか確認した。

中指の爪が半分だけ欠けて、その形はナイフのようだった。

あたしは舌打ちをして、もう一度ポケットへ手を押し込んだ。

丁度掌に収まるぐらいの大きさの箱を掴んだ。

真っ白なリングケース。

ドラマか映画で、キザな俳優が聞き飽きたような言葉でこれを相手役の女優に渡しているシーンを見たことがある。
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