月下美人が堕ちた朝

そして相手は涙を流して抱きつき、愛の言葉を耳元で囁くのだ。

それでハッピーエンド。

創り物の世界は、いつだって美しくて馬鹿馬鹿しい。

どうせこれは、常連客の女へのプレゼントか、逆に貢がれたものだろう。

そんなことを冷静に判断している自分に愛想をつかせながら、あたしはそのケースを開けた。

中では、シルバーの細くてシンプルなリングが光っていた。

その裏側には、何か文字が刻まれている。

リングをケースから外し、文字を読み取る。

「with love S to A」

愛を込めて、スバルからアミへ。

嘘だ。

この「A」は、きっとあたしなんかじゃない。

震える手で自分の左薬指に入れてみる。

まるでパズルが完成する最後のピースみたいに、それは巧くはまった。

あたしは膝の力が抜けて、その場にしゃがみ込む。

こんな思い出を残すなんてズルイ。
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