月下美人が堕ちた朝

あたしを見下したような切長な目を見た瞬間、自分の中で何かが壊れていくのが分かった。

あたしはマナミの右頬を思いきり殴った。

広いロビーにその音が響いて、一瞬時間が止まったような気がした。

そしてあたしは彼女を罵倒した。

警備員に腕を掴まれ、追い出されそうになる。

それでもあたしは止めなかった。

「そんな綺麗なスーツ着てるくせに、心は汚れてる」

「稼いだ金で男を買うなんて可哀想な女」

「返せ返せ返せ返せ…!」

「スバルを返せ」

あたしは結局警備員に追い出され、熱いアスファルトの上に投げ出された。

自動ドアが閉まる直前、マナミがまたあの目であたしを見ながら言った。

「可哀想なのは、私じゃなくて貴女じゃないの?」
< 152 / 196 >

この作品をシェア

pagetop