月下美人が堕ちた朝

十五分程で、スバルの家まで着いた。

乗車賃を払うとき、運転手が行った。

「今日は通夜か?」と、窓の外を見ながら言った。

同じ方向に視線を向けると「川上昴通夜会場」と、大きく書かれた看板があった。

視界がグラリと揺れた。

スバルが死んだということを真の当たりにされて、言葉なんか出てこなかった。

そんなあたしを見て、運転手は何かを察してそれ以上何も言わなかった。

良かった。

この大人は、口は悪いけど他人の痛みが分かる人間だ。

あたしは黙ってタクシーから降りて、玄関の前に立ち尽くした。

親戚の人だろうか。

四十代ぐらいの夫婦が、泣きながら家の中へ入っていく。

あたしもそれに誘われるように、後についていった。

なんて大きな家なんだろう。

あたしは広い玄関の角に、自分のサンダルを脱いで中に入った。

お線香の香りがする。
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