月下美人が堕ちた朝
その香りが漂う方角へ、静かに足を進めた。
十畳以上はありそうな和室に、スバルは居た。
真っ白な着物を着て、真っ白な布団がかけられていた。
真っ白な、あのスーツを、思い出した。
あたしの前を歩いていた夫婦が、スバルの顔にかけられていた真っ白な布を取り、泣き叫んだ。
声にならない声で、彼の名前を呼んでいる。
スバルのあんな表情は、何度も見てきたような気がする。
あの狭いベッドで二人、抱き締め合って眠ったときに見た。
リンカとスバルが昼寝をしているときも、あんなふうに眠っていたっけ。
起こせば「愛してるよ」って言ってくれるの。
目を開けると笑ってくれるの。
あたしは夫婦を間に入って、スバルの首を絞めて言った。
「こうすると起きるの。
愛してるよって、言ってくれるの」