月下美人が堕ちた朝
ようやく吐気が収まって、呼吸も落ち着いたとき、ツバキさんが言った。

「体調悪いの?」

あたしは首を横に振る。

情けなく壁にもたれながら、妊娠していることを話すべきかを考えた。

これ以上、この家を滅茶苦茶なんてできない。

だけどこの命を、スバルがあたしにくれた奇跡を、隠すことは罪だと思った。

これ以上罪深い人間になりたくない。

あたしは深呼吸をしてから、妊娠を告げた。

「え?」

もう一度同じ言葉を繰り返すと、彼女は頭を抱えてグラリと揺れた。

「ちょっと…待って。
貴女、いくつ?
産むの?
父親は、死んでるのよ?
分かる?」

分かってる、全部。

あたしはまだ親の金で生活してる。

社会に出て働いて、子供を育てる自信なんてない。

愛し方すら知らない。

それを唯一教えてくれたスバルは居ない。

分かってる、全部。
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