月下美人が堕ちた朝

今この場所で「産みます」なんて言ったら、まるで映画。

周りには強い女と思われて、だけどあたしに向けられるのは同情の目。

泣きわめく我が子を目の前にしたら、あたしはきっと手をあげる。

言うことをきかなかったら、あたしはきっと産んだことを後悔する。

いつでもどこでも何をしてても、先に逝ったスバルをあたしは恨む。

現実なんて、綺麗じゃない。

だからこそ、現実なんだ。

あたしは無理矢理立ち上がり、ツバキさんに一礼して謝罪した。

何に対して謝罪したのか。

それは自分でも分からなかった。

だけど心の底から「ごめんなさい」と、思った。

産むことも、おろすことも決断できない自分が情けない。

スバルなら何て言うの?

「おろして」なんて、真面目な顔して言うの?

「産めよ」なんて、大人びた顔して言うの?

あたしの中で、スバルは生きてるみたい。
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