月下美人が堕ちた朝
20060726am06:55
言い返すことなんてできなかった。
ましてや殴ることなんて。
あたしがマナミなら、とっくにあたしを殺してる。
静かにあたしに背を向けて、スバルの顔を見つめる彼女は、やっぱり大人の女だと思った。
あたしみたいに取り乱したりなんかしない。
ただ冷静に、現実を受けとめようとしている。
彼女の右手に握られているANNA SUIのハンカチが、小刻に震えている。
だけどマナミは、泣いてるようではなかった。
ツバキさんが部屋に入って言った。
「あの…どちら様でしょうか?」
マナミは三秒後にようやく反応して答えた。
「客です、ホストクラブの。
だけど、彼と恋愛をしていたわけじゃないんです。
彼からは、相談されていました。
仕事のこと、生活のこと、将来のこと。
それから、恋人のこと…」
お経のように話すマナミの言葉を、思わず聞き返す。