月下美人が堕ちた朝
「皮肉だわ…。
私ね、スバルが髪を染めたり煙草を吸ったりする度に、〃この子は生きているだけでヒトを不幸にする〃って、ずっと思ってたの」
あたしは疑問府を投げ掛けて、思わずツバキさんの顔を覗く。
涙を一生懸命堪えるその姿からは、何故か真の強さが見え隠れした。
「あの子がいなければ、両親は悲しまない。
近所の人に陰口も言われない。
学校の先生も困らない。
あたしも…、スバルの代わりに頑張ったり、肩身の狭い想いをしなくて済む」
だけど、と、言葉を続けた。
「だけど違った。
本当にスバルが死んだら、こんなに沢山のヒトを不幸にしちゃった。
家族が我慢すれば済む話じゃなくなった。
さっきの女の人も、貴女も…。
不幸にさせて、ごめんなさい。
哀しい思いをさせて、本当に、本当に。ごめんなさい」
ツバキさんは、畳に額をついて謝罪した。