月下美人が堕ちた朝
涙がポタッポタッ、と、畳の上に落ちていく音が耳に響く。
生まれて誰かを不幸にする人間なんて居ない。
死んで誰かを幸せにする人間なんて居ない。
ましてスバルは…。
あたしに沢山のことを教えてくれた。
沢山の大切なもの。
頭を垂れたまま泣くツバキさんの肩に手を置いたとき、スーツを着た男が二人、部屋の入り口に足音も立てずにやってきた。
あたしは無言で彼等の顔を見比べる。
年の頃は両方四十代半で、片方の男にはうっすら白髪が生えていた。
失礼します、と、白髪混じりの男が言った。
「失礼します。
警察のものですが…。
お姉さん、大丈夫ですか?
カドワキです」
ツバキさんはクルリと体をカドワキと名乗る刑事に向け、涙を隠すようにそのまま頭を下げた。
あたしも反射的に頭を下げると、カドワキが言った。
「カイドウアミさん、ですね?」