月下美人が堕ちた朝
背中を二回刺したとき、彼、あたしに謝るんですよ。
何度も何度も何度も何度も…。
でも、許せなかった。今でも、許せないんです。
だからあたし、彼の背中に言ったんです。
赤い花を三つ咲かせた瞬間に。
あたし言ったんです。
「さよなら」って。
綺麗な言葉ですよね。
「さよなら」って。
凶器は、確かに空き地に埋めました。
あの空き地、来週には工事が始まるんです。
高層マンションが立つんですよ。
そこに住もうね、なんて、彼と笑って約束してたんですけどね。
ベランダに、月下美人を沢山育てようって思ってたんです。
だけど昨日、一輪死んじゃった。
あ、ねぇカドワキさん。
あたし、病気なんですってね。
境界性人格障害って、聞いたことあります?
証言したカズヤに、教科書借りたんですけど、それにあたしの性格が丸ごと載ってるんですよ。
すごいでしょ?