月下美人が堕ちた朝
理由なんか知らない。

だけど、母親はあたしを酷く嫌っていたようで、良い思い出は一つもない。

「食べ物を好き嫌いした」
「汚れた足で家に入ってきた」
「夜までピアノを弾いていた」
「お姉ちゃんの勉強の邪魔をした」
「私を睨んだ」

もしかしたら、理由なんて何でも良かったのかもしれない。

あたしは、一日に何度も罵声を浴びせられ、何度も殴られた。

一度、家の階段から突き落とされて、右腕骨折をしたこともあった。

父親に買い与えられたピアノすら弾けなくなって、世界中の全てを恨んだ。

それから、自分は汚い醜いアヒルの子で、間違って生まれたきたのだと思うようになった。

そうでもしなきゃ、自分があまりにも可哀想だったから。

今でも、梅雨の時期になると右腕が痛む。

傷跡は消えるのに、どうして痛みは消えてくれないのだろう。

あたしは鏡の中のあたしに言った。

「汚いね、ホントに」
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