月下美人が堕ちた朝
20060725am06:38
ベランダを出て、浴室に向かう。

そこに繋がるドアのすぐ後ろにある洗面台は、昨日までスバルが此処に居たという現実を教えてくれる。

あたしと色違いで買った、クリアブルーの歯ブラシ。

あの可愛い顔に似合わない髭剃り。

お気に入りのハードワックスに、ヘアスプレー。

この鏡で、ココア色に染まった短い髪をツンツンにスタイリングしてたっけ。

唇に空いたピアスが痛々しくて、見慣れるまで大変だったけど、アナーキーなスバルには良く似合ってた。

髪の毛を整える、あの真剣な目が可愛くて、あたしが隠れて盗み見ていたのを、彼は知っていたのだろうか。

こんなことをいくら考えても、答えは聞こえないのに。

頭を冷やした方が良い。

あたしはスバルと兼用で着ていた、グレーのティーシャツを乱暴に脱ぎ捨てて、そのまま床に叩き付ける。

脱いだ瞬間、スバルの香りが鼻孔をついたからだ。

セブンスターと、ブルガリブラックが混ざった香り。

スバルの香りだ。
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