月下美人が堕ちた朝

結局あたしは、スバルや他のホストたちと同類だ。

冴えない女が、薄汚い体で稼いだ金で生活してきたのだから。

リンカを連れて行ったディズニーランド。

二人で行ったバリ島。

二人で観た映画。

美味しかった食事。

全部女たちの金だ。

裏を返せば、スバルのセックス料金。

だけどその金があったからこそ、あたしたち二人は一緒に居られたのかもしれない。

二年という、長いようで短い、一瞬の出来事だったけど。

あたしは赤いブラシを棚に戻して、家を出る支度をする。

クローゼットから、リンカに教える為の楽譜を適当に一冊抜いて、バックに詰め込んだ。

今日教えるのは、フランツ・リストの「愛の夢」にしよう。

リンカにはまだ少し早いかもしれないけど、あの子は物覚えが早いから大丈夫。

テーブルの上に投げてあった鍵を掴む。
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