月下美人が堕ちた朝
さすがのスバルも、あの時だけはバイトを休んで看病してくれたっけ。
「気を付けろよ、頼むから。
俺も何処にも行けなくなんだからさ」
憎まれ口を叩きながら、スバルは普段は決してやらない家事を一生懸命やってくれた。
お揃いのマグカップを割ったり、掃除機で自分のピアスを吸ったり、沢山の失敗をしていたけれど。
ホストクラブにやってくる客には絶対に見られない姿を、あたしが独り占めしてることに優越感を持ったりもした。
美味しくないお粥も、下手くそなアイロンがけも、全部あたしだけのものだった。
あたしはまた余計なことを思い出しながら、リンカへと続く二つの道の前で立ち止まる。
右側へ行けば、すぐにサクラザワ公園がある。
左側へ行けば、遠回りになる。
少しの間考えた後、あたしは左側へと進んだ。