月下美人が堕ちた朝
体に見覚えのない傷があったり、落書き帳に訳の分からない言葉が書いてあったりした。

もしかしたら、あの時のあたしは二重人格だったのかもしれない。

だけどそうすることでしか、あたしは生きてこれなかったし、自分を孤独から救えなかった。

大人になってからは、変な傷や落書きはなくなった。

記憶を失うこともなくなった。

それなのに。

やっぱり昨夜のことが、どうしても鮮明に思い出せない。

また強烈な孤独感に負け、記憶を忘却させたのだろうか。

情けない。

あたしは熱いコンクリートの上を歩きながら、少しずつ異空間へ翔ぶ自分を感じながら思う。

「ホントは逃げ場所なんて、何処にもない」
< 40 / 196 >

この作品をシェア

pagetop