月下美人が堕ちた朝
スバルは長い髪の女が好きで、あたしにも髪を伸ばすように強要した。

他人に何かを命令されるのは大嫌いだったが、あたしはとにかくスバルに好かれたい一心で、髪を伸ばした。

いつだったか…一度だけ理由を聞いたことがある。

そしたら「SEXしたあとに、指で髪の毛いじるのが好きだから」と、真面目な顔をして言っていたっけ。

年下のくせに、変なところだけ大人の振りをするのが得意な男だった。

だけど激しく抱かれた後に、スバルの細くて繊細そうな指が、自分の背中や髪の毛に触れるのが、堪らなく好きだった。

あたしは彼の指一本でも、爪先でも、愛を感じることが出来たし、その度に涙が出るほど幸福を感じていた。

それなのに、どうしたというのだ。

スバルが出て行ったというのに、涙すら出ない。

これもまた、あたしの見栄とプライドのせいなのだろうか。


「クダラナイ」
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