月下美人が堕ちた朝
あたしたちは血の繋がった姉妹なのに、姿形も思考も何もかも似ていないから。

アヤねぇは、生まれた頃から英才教育を受け、親や親戚から将来を期待されていた。

ピアノも英語も習字もバレエも、アヤねぇは全部一番で、全部得意だった。

七年後に生まれたあたしにも、勿論両親は英才教育を受けさせたが、その時間が苦痛で仕方なかった。

アヤねぇと、比べられるからだ。

「もっと頑張りなさい」

「アヤみたいになりなさい」

「泣かないで我慢しなさい」

我慢が出来なくなったあたしは、英語の学習ビデオをボロボロに壊したり、トゥ・シューズを捨てたりした。

唯一続いたピアノは、アヤねぇより開花したのに怪我で諦めざるを得なかった。

ますます言うことを聞かなくなった娘に、両親は諦め、無駄な金を使わずアヤねぇに投資を増やした。

それでも、キャビンアテンダントを目指して大学進学したアヤねぇは結局デキ婚をして、母親の博打は大ハズレしたのだ。
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