月下美人が堕ちた朝
「聞きたくない。
ぜんぜん上手じゃない。
耳、いたくなっちゃうよ」

ショックだった。

あたしが唯一アヤねぇと勝負できるピアノを、リンカに否定されたからだ。

あたしは焦って、今度は冷静にピアノを弾いたが、リンカは両手で耳を塞いで「いや、いや」と繰り返すばかりだった。

今にも泣き出しそうなリンカを見て、あたしはピアノから離れ、絨毯に座り込む。

もうあたしは、リンカにも必要とされていないのだろうか。

何故、本当に大切な人ばかり、あたしは失っていくのだろう。

ただ愛したいだけなのに。

ただ愛されたいだけなのに。

リンカが涙を流しながら、あたしの目の前にしゃがんだ。

それなのに焦点が合わず、あたしは夢見心地でリンカを眺めた。

この子はなんて感受性が強いんだろう。

あたしが生み出す不快な音のせいで、涙を流しているのだ。

アミちゃん、と、リンカが言った。
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