月下美人が堕ちた朝

あたしは何も答えることができなかった。

そんなことを考えたこともなかったし、死は自分にとって近いようで遠い、おとぎ話のような気がしていたから。

彼は続けて言った。

「小さい頃、ばあちゃんに聞いたんだ。
ヒトは死んだら、どうなるの?って。
そしたら“無になるんだよ”って言われた。
“自分が生きていたこと、自分が関わってきた人や出来事、全てを失うことによって、ヒトは人を終らせる”って。
信じたくなくて、めちゃくちゃ反抗した。
雲の上には天国があって、みんなとそこで住むんだって言った。
だけど、きっと、ばあちゃんの言ってたことが当たってるような気がする」

だから、眠れない夜は怖いんだ。

お前の寝顔を見ながら、全部忘れちゃうのかと思うと、怖くて涙が出てくるんだ。

俺、馬鹿みたいだろ?

良いよ、笑っても。

自分でも、笑えてくるよ。
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