月下美人が堕ちた朝
あたしが鼻で笑ってリビングから出ようとしたとき、アヤねぇが引き留めるように、あたしの名前を呼んだ。
「アミ。
覚えてないと思うけど、この時計はアミが生まれて、初めて家に来た日にお父さんとあたしが買ってきたのよ?
病院に二人を迎えに行く前に。
アミは泣いてばかりだったけど、あの時はみんな笑ってた」
アヤねぇの脳内は、どうやら二十年前にトリップしたみたいで、小さな声で呟いた。
「本当にみんな、幸せそうだった」
あたしはそんな記憶は一秒だって持ち併せていない。
気が付けばあたしは家族の邪魔者で、生んだことを母親に後悔させた親不孝ものだ。
自由を選んだリスクは大きい。
だからね、と、アヤねぇは言った。
「だからね、許してあげて欲しいの。
お母さんのこと…」
あたしは眉間に皺を寄せて聞き返す。
アヤねぇの言葉を、上手く理解することができない。