月下美人が堕ちた朝
高校のときに付き合った男は、もしかしたらスバルより良い男だったかもしれない。
浮気もしない。
お金も欲しがらない。
真面目で優しくて、何よりあたしを大切にしてくれた。
それなのにもう、彼の声すら思い出せない。
名前は確か、タクマだっけ。
周りの女子は、タクマのことを名字で呼んでいたけど、あたしだけが「タクマ」と呼べることが嬉しかった。
だけど、あたしはタクマと二年間という時間を共にして別れを告げた。
毎朝くる、おはようメール。
七時三十五分に駅の改札で待ち合わせをして、手を繋いで電車に乗る。
休み時間は、タクマがあたしの教室まで来て、ベランダでグラウンドを見ながら世間話をする。
放課後はゲーセンでプリクラを撮ったり、カラオケに行ったりして毎日遊んでた。
小遣いがなくなれば、誰も居ない教室の角で何百回もキスをして笑った。