月下美人が堕ちた朝

幸せだった。

満たされていた。

それなのにあたしは逃げた。

安定が、怖かったから。

安定と不安は、いつだって隣り合わせで、いつかこの日々に終りがくるのを、あたしは諦めにも似た気持ちで察していた。

それは、心のどこかで「安定なんて有り得ない」と思って生きてきた結果なのかもしれない。

「happy end」なんて言葉を信じることは、どうしても出来なかった。

あまりにも、多くの傷跡を残してしまったから。

安定が怖いのは、いつか壊れてしまうから。

破壊が怖いのは、全てのものを傷付けてしまうから。

自分も。
相手も。
周りも。
未来も。

だから未完成のままが良い。

いつも幸せを追い続けていれば、その破壊への不安や恐怖に襲われたりしないから。

あたしはゆっくりと立ち上がり、スッと伸びる自分の影を見て言った。

「だからスバルじゃなきゃダメなの」
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