月下美人が堕ちた朝
あたしは振り返って無器用に笑って見せた。
カズヤは一瞬無表情になって、あたしの顔を見つめる。
その瞳は、あたしの全てを見透かしていそうで怖くなる。
思わず目をそらすと、右手に持っていたコンビ二の袋をあたしに突き出して行った。
「お袋に頼まれたアイス、ここのコンビ二にしか売ってなくてさ。
懐かしくない?
良く二人で食べたよな」
カズヤは確実にあたしの異変に気付いているのに、何も言わなかった。
借りていたお金のことも、スバルのことも。
そんなカズヤの優しさが嬉しかった。
「アミってこの辺に住んでんだよな?
暇なら家に来れば?
俺、車だから」
カズヤはいつもそうだ。
母親と喧嘩して、あたしがぼんやり歩いていると、いつも見付けてくれた。
そして「暇なら家に来れば?」と、招待してくれるのだ。
小学生の頃は良く繋いでくれた手を、今は繋いでくれないんだろうな、と、少し切ない気持ちになる。