月下美人が堕ちた朝
だけどカズヤは、いつだってあたしに愛情を持って接してくれた。
それは男女の恋愛とか友情とか、そんなレベルじゃない。
スバルと付き合って、お金を借り続けていたときも、唯一叱ってくれたのはカズヤだったから。
最後に逢ったのは「もう貸さないからな」と、突き放されたとき。
それなのに昔のように笑ってくれるカズヤは、あたしの救世主だ。
あたしは煙草を汚い灰皿に押し付けて頷いた。
またあの部屋に戻るのは、自殺行為だと分かっているから。
パールホワイトのコパンの助手席のドアを、カズヤが開けてくれる。
こんなことは、あたしじゃない女性にもしているんだろう。
その仕草はあまりにもスマートで手慣れている。
あたしは温度が高い車内を落ち着きなく見渡して、隣の運転席に座るカズヤの横顔を盗み見る。
いつからこんなに男らしくなったのだろう。