月下美人が堕ちた朝
それともただ、あたしが見過ごしてきただけなのか。
スバルしか見てなかったから。
カズヤはエンジンをかけて、ラジオをつける。
そこから流れる、あたしの知らない最新曲を鼻唄で歌いながら、ゆっくりと車を走らせた。
最近、と、カズヤが言った。
「最近、タクマに逢った。
あいつ、もう父親だってよ。
驚いた。
元々真面目な奴だったけど、大学辞めてちゃんと働いてる。
子どもは六ヶ月だって」
あたしは心臓の奥が痛くなる。
あたしがふってから、タクマは「女はもう信用しない」と言っていたのを知っていたから。
あたしは口先だけで、タクマの近況を喜んだ。
喜ぶ権利は、あたしにはないのだけれど。
「みんな変わっていくな。
タクマはお前と別れてから女不信になったのにさ。
焦るよ。
俺も成長しなきゃヤバいのに」
以外だった。
カズヤが弱音を吐くのは、初めてだったような気がしたから。