月下美人が堕ちた朝
彼は器用な運転捌きで、たまにあたしの様子を伺いながら話を続けた。

「俺はカウンセラーになりたくて、今の大学に入って心理学を専攻した。
それはアミも知ってると思うけど。
知識はついたし、カウンセラーになりたいって夢は変わってない。
だけど…」

信号が赤に変わって、車がゆっくり停止した。

あたしはカズヤの方を向いて、話の続きを待った。

「だけど俺は、一つ気付いたことがある。
知識と信念だけじゃ、誰も救えない。
良い大学入って、地位と名誉があっても、人間として悲しいよ」

信号が青に変わる。

あたしは何も言えなかった。

一体カズヤは、あたしに何を伝えようとしているのか分からなかったから。

だけどカズヤは真っ直ぐ前を見て言った。

「俺はお前を救いたいんだ」
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