月下美人が堕ちた朝

あたしは玄関先に入り、パタパタとスリッパの鳴る方向に目を向けた。

久しぶりに見たユウコさんは、前よりまた可愛らしくなったような気がして羨ましかった。

「アミちゃん?
アミちゃんなの?
驚いたわ。
早くあがりなさい。
嬉しい、逢いたかったのよ」

サンダルを脱いだあたしをユウコさんは力一杯抱き締めてくれた。

母親に抱き締められた記憶はないのに、どうして懐かしいのだろう。

あたしも目を瞑って抱き締め返し、心地良いコロンの香りを吸った。

カズヤが、お袋、と、言った。

「お袋、暑苦しいから離れてやれよ。
嬉しいのは分かるけどさ。
ほら、アイス。
溶けるから冷凍庫に入れて」

ユウコさんより遥かに背の高いカズヤが、ユウコさんの頭を二、三度優しく叩く。

それがまるで歳の離れたカップルみたいで、不思議な感覚になる。

ユウコさんは少しだけ怒りながら言った。
< 86 / 196 >

この作品をシェア

pagetop