月下美人が堕ちた朝
「子供のくせに、親を子供扱いしないでよ」
そう言って手渡されたアイスを持ってキッチンに向かう。
あたしがユウコさんの背中を見ながら笑うと、カズヤが耳元で言った。
「な?
喜んだだろ?」
いたずらっ子のように笑う顔は、昔のままだ。
あたしも嬉しくなって、笑いながら頷いた。
カズヤはあたしに、自分の部屋に入っているように、と言って、本人はキッチンへ向かう。
場所は聞かなくても分かる。
二階へ続く、立派な螺旋階段を登って、三番目の部屋。
何度も来たことがあるはずなのに、少しだけ緊張する。
ゴールドの薔薇をモチーフにしたドアノブに手をかけて、そっとドアを開ける。
いつ来ても綺麗に整頓された勉強机。
見覚えのある地球儀に本棚。
あたしはゆっくりと足を踏み入れて、壁に飾られているルノワールの絵を見る。
カズヤの父親はルノワールが大好きで、毎年必ずルーブル美術館へ行く。