月下美人が堕ちた朝
「あら?
アミちゃん、寝ちゃったの?」

「疲れてるみたい。
なに?
ご飯?」

「そうだけど、少し寝かせてあげて。
起きるまで待ってるから」

小声で行われる会話に、申し訳なさがこみあげてくる。

あたしが弱いから、だからみんなが気を遣う。

ゴメンナサイ
ゴメンナサイ
ゴメンナサイ…

あたしの小さい頃からの呪文。

こんなことを言ったって、誰からも許されないことは知っているけれど。

静かにドアが閉まる音がして、カズヤが小声で「もう良いよ」と言った。

あたしはその合図で状態を戻し、父親のような顔で自分を見つめるカズヤと視線を合わせる。

さっきのキスも、甘い台詞も恋心故のものじゃないことぐらい分かってる。

恋人と別れ、泣きじゃくる幼馴染みの女を励ます、彼なりの手段だ。

カウンセラーを目指してるだけある。

事実、あたしは少しだけ救われたのだから。
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