月下美人が堕ちた朝
その少年は、逃げ場を失ったネズミみたいに小さく背を丸めて、うつ向いたままだった。
「おい、こっち来いって言ってんだよ」
妙に髪の長い男子が睨みながら叫んだ。
変声期だったのか、違和感のある声で怒鳴られて、あたしの体は硬直した。
カズヤの手を強く握って、混乱する頭をどうにか冷まそうとした。
だけどカズヤは言った。
「走ろう。
この距離なら逃げられるよ」
カズヤもあたしの手を握り返して、後ろを向いて走り出そうとした。
「逃げんなよ!」
背中から聞こえる声に、心臓が破裂しそうだった。
足音が少しずつ近付いて来て、あたしとカズヤは捕まった。
カズヤはランドセルを盗られ、あたしは手首を掴まれた。
髪を振り乱して男が言った。
「おいチビ。
返して欲しかったら、こっち来い」
カズヤは毅然な態度で、そいつの前に足を運んだ。