月下美人が堕ちた朝
するとそいつが、隣に居た地味な男子に言ったのだ。

「お前喧嘩よえーからさ、このガキで練習しろよ」

彼はまだうつ向きながら首を横に振った。

うわ言のように、できないよ…できないよ…と、繰り返した。

そうか、と、長髪の男が言った。

「お前は殴られるばっかりで、殴り方知らねぇんだ?
じゃあ武器やるよ。
お前にピッタリの武器」

そう言うと、ポケットからカッターナイフを取り出して少年の手へ投げた。

カズヤはそれを黙って見ていたし、あたしは掴まれている手首の痛みに涙を流していた。

カッターナイフを握り締めたまま震える少年の頭を、長髪の男が拳で思いきり殴った。

そして一言呟いた。

「切れ。
やらなかったら俺がお前を切るからな」

悪魔だと思った。

自分の母親と同じような悪魔が、此処にも居た。

あたしは絶望的になり、声をあげて泣いた。
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