明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
「席に戻ろうか」

 私は固まっているあゆみの肩を叩いた。
 あゆみは無言で頷く。

 明香たちも目を輝かせながら、男子生徒のやり取りを見守っていた。

「これを校長に見せたくね? もっと盛り上がりそう」

「俺、記念に一枚写真撮っておこう」

 そのうち一人が携帯のカメラでその写真を撮った直後、教室の扉が開く。

「なにやっている」

 扉が開いて正岡が入ってきた。いつの間にかホームルームの開始のチャイムが鳴っていたようだ。彼は教卓近くで大騒ぎをしている生徒たちを厳しい口調で責める。

 生徒たちはすみませんと謝ると自分の席に着く。彼らにとって正岡から怒られる事はどうでも良かったのだろう。

 口元がゆがんでいた。

 正岡は教卓の前に立つと、顔をしかめた。

「何だ。これは」

 正岡の手が震えだした。

「誰だ。こんな悪戯をしたのは」

 教室内はしんと静まり返っている。

「ふざけるな」

 正岡はその紙をくしゃくしゃに丸めると、自分のポケットの中にいれた。
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