明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
「いいの?」

 そう言ったのは髪の毛をショートボブにした渋田由紀だ。

 いいと言う明香の言葉を受けて、明香の取り巻きが一斉に芽衣から離れる。

 芽衣は呆然とその場に座り込んでいた。

 私が散らばったボールペンを拾おうとしたとき、教室の扉があき、担任の正岡が入ってくる。

 彼は芽衣を見て、一瞬顔を引きつらせるが、何事もなかったかのように教卓に立ち、出席を取り始めた。

 私が構わず彼女のカバンの中に入っていたものを拾うと、正岡は私の行動を言葉で制した。

「もうホームルームは始まっているぞ」

 私は正岡の言葉にムッとし、彼を睨む。

 正岡がびくりと肩を震わせるのが分かった。

「大丈夫。自分で拾える」

 彼女の数学のテキストに触れた私の手に、芽衣が触れた。

 彼女は涙声でそう告げる。

「お前は自分の席に戻れ」

 私は正岡を睨むと、自分の席に戻る。

 静まり返った教室の中、芽衣が教科書を机の中にしまう音と、正岡が帰りのホームルームを進行する声だけが辺りに響く。

 明香は芽衣が教科書を片付ける姿を見て鼻で笑っている。
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