明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。

 私が芽衣のお墓に行くと、そこには既に先客がいた。

長身で体つきもがっしりとした男性だ。

彼は微動だにせず、お墓をじっと見つめている。

 その表情は芽衣の葬式に見た彼の姿を思い起こさせた。
 あれからそんなに日数も経っていないのだ。

「松下先輩」

 私はその男性の名前を呼んだ。

 だが、すぐに心の中で訂正する。
 少なくとも私にとって彼は先輩ではないのだ。

 その男性は驚いたようにこちらを見ていた。

 彼の真っ黒な瞳に見つめられ、私はドキッとした。

 私がどう自己紹介をしようか迷っていると、彼は何かに気付いたのか、小さく声を漏らす。

「もしかして竹下彩乃さん?」

 私は彼が私の名前を知っていたのに驚きながらも、頷いた。

 その時、私の額にぽつりと雨が降る。

 空がいつの間にかどんよりと曇っていて、はっきりとは見えない。

「傘ある?」

 私は首を横に振る。

「寺で雨宿りさせてもらうか」


 私は彼のあとをついていき、本殿まで行くことになった。
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