明日を迎えられない少女は何を望んでいたのだろうか。
 明香のことを言いたい気分にはなった。
 だが、彼とつきあっていたことでいじめられていたなんて、彼には言い出せなかったのだ。


「少なくとも夏休みまでは楽しそうにしていると思ったのだけど、人って分からないよな」

 私は何も言えずに頷く。

 松下さんは芽衣の名前を聞くたびに、悲しそうな、それでいてとてもくすぐったそうな笑みを浮かべる。

「せめて同じ学校だったらどうにか出来たかもしれないけど」

 言葉にすると十五秒ほどの短い言葉だった。だがその言葉が松下の今の気持ちを全て表している気がした。

 彼の言葉や表情に、芽衣への気持ちがあふれていた。

 多分芽衣の彼のことを大切に思っていたのだろう。だからこそ言えなかったのだろう。

 そして、だからこそ私は彼の前で明香の名前を出す事が出来なかった。彼の芽衣への思いを穢してしまいそうな気がして。

 雨が降り続いていた空が少しずつ明るくなってきた。
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